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東京高等裁判所 昭和56年(行コ)28号 判決

控訴人 田中とみ 外九名

被控訴人 長野県

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決を取り消す。本件を長野地方裁判所に差し戻す。」との判決を求め、被控訴人代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の、事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は、原判決事実摘示(原判決二枚目-記録八丁-裏一二行目から原判決五枚目-記録一一丁-裏一〇行目まで。(但し、原判決五枚目-記録一一丁-表一一行目「第九ないし二五号証」とある後に、「第三、第四、第六ないし第八号証の各一、二、第九、第一〇、第一二、第一四、第一六、第一八、第二〇、第二三ないし第二五号証は写である。」を加え、同表末行冒頭に「甲第三、第四、第六ないし第八号証の各一、二、第九、第一〇、第一二、第一四、第一六、第一八、第二〇、第二三ないし第二五号証の原本の存在を認める。」を加える。)のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  まず、被控訴人施行の軽井沢国際親善文化観光都市建設計画軽井沢駅前第三土地区画整理事業(以下「本件区画整理事業」という)の施行地区内に控訴人ら所有の長野県北佐久郡軽井沢町大字軽井沢字中谷地一一七八番五五宅地六二四・〇三平方メートル(以下「本件土地」という)が存在することの確認を求める訴えの適否について判断する。

控訴人らの右訴えの趣旨が、本件土地の所在位置について、本件土地が本件区画整理事業の対象としている地域(弁論の全趣旨によると、その地域の範囲については当事者間に争いがないものと認められる)に含まれていることの確認を求めるにあるとしても、或は、本件土地が、本件区画整理事業の対象としている地域内に、現実に存在することの確認を求めるにあるとしても、いずれも、単に土地の位置、存在についての事実の確認を求めるに過ぎないものであつて、かような確認を求める法律上の利益はないというべきである。

二  次に、換地を定める義務の確認を求める訴えについて判断する。

右訴えは、本件土地について、被控訴人に換地処分をなすべき義務のあることの確認を求めるというのであつて、特定の行政処分をなすべき義務の確認を求める趣旨であるところ、行政庁に対し、特定の行政処分をなすことを求める訴えもその義務の確認を求める訴えも、行政庁に与えられた第一次的判断権を奪うものであるから、原則として許されないものと解すべきであり、唯、当該行政処分をなすべきこと、又はなすべからざることが法律上覊束されていて、行政庁に裁量の余地が存しない場合であつて、他に救済の手段がなく、しかも、行政庁の処分が全く期待できないか、その処分を待つときには損害が大きいなどの事情があるときに限りこれを認めることができると解するのが相当である。

本件においては、換地処分の対象となるべき、控訴人ら所有にかかる土地の存否が争われているところ、換地処分の対象となるべき土地の所在の確定は、土地区画整理法及びこれに基づく施行規程に定められた手続に従つて、施行者においてこれをなし、その結果権利を害せられる者は、同処分を争う方法によつて救済を図るべきであり、更にその前提となるべき私法上の権利の帰属について争いのあるときには、争いのある当事者間で権利関係を確定すべきであつて、これらの方法によることなく、直接に、行政庁である被控訴人の換地処分をなすべき義務の確認を求めることは、許されないというべきである。

なお、県営土地区画整理事業施行条例第一三条の規定は、換地計画において、換地を定めるために必要な従前の宅地各筆の地積の決定方法を定めたものであると解すべきであり、土地の権利の存否についての確定方法を定めたものとは解されないから、右規定をもつて、公簿に記載された土地につき、当然に換地を定めるべき義務を生ずるものということはできない。

さすれば、右訴えも不適法として却下を免れない。

三  よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は、理由がないから、民訴法三八四条に従いこれを棄却すべく、控訴費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 園部秀信 宇野榮一郎 川上正俊)

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